2024年も今日で最後です。私たちが関わる美容業界においても様々な出来事がありました。 今回は2024年の振り返りの記事として、リクルートの観点から美容業界の雇用環境や教育における変化、業界の変化についてまとめたいと思います。 1、人材市場における傾向
2024年、日本全体の人材市場では、少子高齢化や働き方改革の進歩により変化が見られました。特に人手不足が深刻化する中、企業は多様な働き方改革のために柔軟な雇用形態を導入し、リスキリング(学び直し)やスキルアップ支援にも力を入れるようになりました。
また最低賃金がさらに上昇し(下記リンク参照)企業にとっての人件費の増加というリスクをもたらしました。特に小規模事業者や美容業界のように人の手を多く必要とする業界では経営負担が大きくなり、価格改定やコスト削減の必要性に迫られました。その一方、労働者にとってはより高い給与を得るチャンスが増え求人の魅力が増える事にも繋がっています。 https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/001297510.pdf
2、美容業界における変化
1)柔軟な雇用形態
美容業界においても柔軟な雇用形態を導入する企業が増えてきました。深刻な人手不足に対応するために育児や介護などの理由でフルタイム勤務が難しい人々にとって、パートタイムやフレックスタイム制度を提供する企業が増えています。また雇用形態においても正社員だけではなく、パート・アルバイト、業務委託契約、FC制度導入による社内独立など、従業員のライフスタイルに応じて対応する企業が増えています。
2)初任給の上昇
2024年、47都道府県で最低賃金は50〜84円引き上げられ、全国平均額は1,055円となりました。 昨年度の1,004円から51円の引き上げ幅は、過去最高額とのことです。 それに伴い、美容業界でも初任給が上昇しました。よく、美容業界は一般企業に比較すると給料が少ないと指摘されていましたが、現在では一般企業に引けを取らない給与水準になっています。
3)福利厚生の充実
ここ数年の間に美容業界の福利厚生が大きく改善され、求人のメリットや従業員の満足度向上に繋がっています。具体的には、休日や労働時間の柔軟化、業界特有の長時間労働の見直しが進み、労働環境が整備されました。また、給与体系の改善やボーナス、昇給制度が見直され、働きやすい職場づくりが強化されています。2024年では特に休日に関して「推し活(※)休暇」をうたう企業が増えました。
さらに、社員教育やキャリアアップの支援も充実し、スキル向上が期待できる環境が整っています。こうした取り組みが美容業界の働き手を引きつけ、業界の成長に寄与しています。
(※)「推し活」とは、自分にとってイチオシの人やキャラクター(=推し)を、さまざまな形で応援する活動のこと。 推しの出ているライブやイベントを観に行ったり、グッズを買ったり、手作りのグッズを作ることもその活動の一部です。 一部調査では、今や20代〜50代女性の約5人に1人が「推し活」をしているそう。
4)教育の変化
・アカデミー制度の充実
また、美容業界の教育カリキュラムが改善され、営業時間後、遅くまで練習をするのではなく、営業時間内に練習ができる事はもはや当たり前になりました。中でもアカデミー制度を充実させるサロンが増えました。アカデミー制度とは、一般的に入社したばかりのスタッフ(アシスタント)が集まり、昼間の時間を使い技術習得や接客のスキルを学べる制度のことです。
アカデミーで学びながらサロンワークを行うカリキュラムが一般的でしたが、2024年には入社後1ヶ月以上サロンワークに一切就かないで集中してアカデミーで学ぶサロンが散見されました。技術習得だけではなく、学生から社会人になる自覚を芽生えさせ、スムーズにサロンに溶け込み美容師として活躍できるようにするためです。また早期離職を防止する目的もあるようです。
・スタイリストデビューまでの期間短縮
また、スタイリストデビューまでの期間が短縮され、スタイリストデビューまで1年、もしくは1年半というサロンも増えました。特徴としては2点あります。まずひとつ目は課題を絞り、特に必要ないと思われる技術は省いていく。2つ目はカラーやカットなどを並行して行い、同じ技術練習の繰り返しで飽きないように集中して技術を習得できるようにする。また、カット、カラー、パーマなど全てのメニューができると「スタイリスト」と言っていましたが、現在はメンズカットができればスタイリスト、カラーができればカラーリスト、ヘアアレンジができればヘアアレンジリストなどとサロンによってその定義は様々になっています。
従来の技術や接客が中心な指導に加え、SNSマーケティングやマネジメントなど、幅広い知識を提供するサロンも増えました。また、オンライン教育などの取り組みも広がり、自社の先輩だけに指導してもらうのではなく、自分が学びたい講師から学べる事により美容業界全体のレベルアップを促進しています。
3、美容業界における業態の変化
美容業界にはカット、カラー、パーマなど基本的なヘアメニューをメインにした業態、トータルビューティーのサービスを扱う業態、専門的なメニューを扱う業態などいくつかの業態があります。その業態の中でも、カット専門店やヘアカラー専門店、髪質改善に特化したトリートメント専門店など、特定のサービスに特化したサロンが増加しています。一方、数人のスタッフを雇用するような地域密着型の小規模サロンは減少傾向にあります。その反面、店舗を持たず自由な働き方を選ぶフリーランスの美容師が増えてきています。
1)特化型サロンが増えた理由
・生活スタイルにマッチ
特化型サロンが増えた背景には、忙しい現代人の生活スタイルにマッチしている点が挙げられるでしょう。特化型サロンは駅前やショッピングセンターの中など、便利な場所に立地しており、必要なサービスだけを短時間に受けられます。省時間、利便性に優れているといえるでしょう。また、価格が明瞭で一般の理美容室に比べると安価なため、節約志向の消費者にも支持されています。
・他店との差別化
美容室の数は増え続け、現在は全国に約27万軒あり飽和状態と言われています。そこで他店との差別化をはかるために特化型サロンは増えて来ました。育成においてもその技術のみを習得すれば良いため、早く一人前になれる点もメリットでしょう。ブランクがある美容師にとっても復帰しやすい環境といえます。また特化型美容師という言葉も生まれ、カットやカラーをさらに細分化し、例えばショートカット専門、ハイトーンカラー専門などを強みとする美容師の発信も目立っています。
2)小規模サロンが減少した理由
美容業界だけが世間より低水準な労働条件が許される時代ではなくなりました。労働条件の見直し、社会保険完備などのハードルは小規模サロンには高く、数少ない従業員もより条件の良いサロンへ転職してしまいます。そこで人手不足となり、小規模な理美容室では経営が厳しくなりつつあります。ひと昔前は「一国一城の主」として経営者になる事を目指して美容業界に入ってきた人が大半でした。その結果店舗も増え続けています。しかし、現在は人を雇用する事のハードルが上がり経営者を目指す人も減少しているようです。独立するとしても、その形態はオーナー個人店、もしくは夫婦など家族だけの小規模店が多くなっています。さらに店舗を保有せずに独立して働くフリーランス美容師、業務委託美容師といわれる個人事業主で働く美容師が増えています。
3)フリーランス美容師が増加した理由
フリーランス美容師が増えた背景には、働く場を提供してくれるシェアサロンの増加、SNSで効果的な集客ができるようになったことがあります。独立する前の準備段階としてシェアサロンを活用している美容師も少なくないといいます。また働き方改革の一つにダブルワークがありますが、前述した完全予約制の個人店やフリーランス美容師という働き方は予約時間以外に他の仕事をするなどダブルワークにも対応しやすい働き方といえます。
4)企業サロンの可能性
上記に給料や福利厚生・教育の充実について説明しましたが、これらに対応できているのは一定規模の企業サロン(株式会社として正社員雇用を主体に経営)です。賃金の上昇、働き方に対する要望は今後も続いていく事でしょう。また直前に迫った2025年問題(国民の5人に1人が後期高齢者(75歳以上)の超高齢化社会を迎えることで雇用、医療、福祉といった日本経済や社会の広い領域に深刻な影響を及ぼす諸問題の総称)もあります。それらの変化に対応し事業を推進、成長していく事は企業サロンの課題となるでしょう。そういう意味でリクルートを軸に考えたとき、美容業界は、一定以上の正社員を雇用し経営していく企業サロンか、個人サロンかの2極化が進むのではないかと思われます。
今後も業態は時代に合わせて変化していくと思われますが、理容師・美容師の仕事の本質は変わりません。髪を通じてお客様を幸せにできる非常にやりがいのある職業です。また、ヘアスタイルはおしゃれにも通じるため若者からの人気も得られる職業です。 私たちビューティープロでは、今後も人気分野、人気職種であり続けるよう理美容業界の素晴らしさを発信し続けたいと思います。
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